跡取り娘インタビュー
Vol.27 株式会社ジャスティ 取締役 総務部長 小澤 由佳さん
衝突試験用ダミー人形の開発・製造・販売を行う日本で唯一のメーカー「株式会社ジャスティ」。創業者の娘・小澤由佳さんはブライダル業界勤務を経て家業に入りました。好奇心旺盛な性格や幼少期から海外文化と触れてきたこともあり、広い視野を持ち、現在は営業や総務的な立場で活躍しています。自社だけでなく業界全体の発展にも
―小澤さんが家業に入るまでのことをお聞かせください。
大学入学時に通学先について勘違いをしていて、学校まで片道2時間かかるという事態に陥ってしまったのです。そのためあまり勉強に身が入らず、やりたいことも見つからず中退してしまいました。フリーターを経てブライダル専門学校に2年通いました。並行して海外支援のNPOに参加し、フィリピンで孤児院の建設に携わったこともありました。その後ブライダル業界に就職、10年間現場で働きました。社歴も長くなり、マネージメント側になるというような話が出た頃、コロナ禍に。ブライダル業界は低迷、当時すでにシングルマザーだったこともあり、子どもの将来も視野に入れ家業に関わるようになりました。
―株式会社ジャスティを起業した小澤さんのお父様はどのような道を歩まれてきたのでしょうか?
父は、高校卒業後にレーシングカーの整備士として働きました。その後、大学に入り直し、青年海外協力隊としてアフリカに滞在、帰国後はヤマハに就職し、オランダ駐在も経験しました。私が生まれたのは、そのオランダ時代。やがて「祖父母にも孫の顔を見せたい」と、家族とともに東京に戻った父は、自営業を始めました。最初は衝突試験用バリアの代理販売からスタートし、やがて「日本製のダミー人形を作りたい」と一念発起します。素材探しから設計、試作まで、すべて独自で行い、ついに国産のダミー人形を世に送り出しました。
私はと言えば、2歳半にオランダから帰国したため、現地の記憶はありませんが、好奇心旺盛で海外への興味が強く、10代の頃には父の中国出張に着いて行って現地の工場寮に泊まらせてもらったことも。ただ、父の仕事にはあまり興味が持てず、父からは「継いでほしい」と言われ続けていましたが、継ぐ気は全くなかったです。家業には入っていますが、現在も「代表を継ぐ」と決意した訳ではないんです。

小澤由佳さんの右隣がお父様(小澤 芳裕氏)
―「継ぐ」と決意した訳ではないとのことですが、小澤さん自身はどのように家業に関わっていますか。
家業に入って約5年になります。うちの会社は営業が弱いのが難点でした。そのため私は当初営業として家業に入りました。
これまでに関係のあった企業様を相手にメール等でコンタクトを取り、父に同行してもらい営業に伺いました。すると、当たり前なんですけど必ず先方に「娘さんですよね。」って聞かれるんですよね。やっぱり相手からしてみたら私を見て「この人が継ぐのかな」と思うわけです。当時の私は父に対して「営業は手伝うけど継がない」って言い続けていたので、そういう視線で見られるのがすごくイヤでした。
実は、ダミー人形にも興味が持てなかったんです。
そもそも私には技術的な知識が全くありませんでした。現場で使われる用語はネットで調べても出てこないほど専門的なもの。家業に入って一番最初に会社のことを勉強するためパンフレットを一通り読んで覚えようと思ったんですけど、全然頭に入ってこなかった……。そこで、もしこれから先経営側に関わっていくとしても、父みたいなやり方はできないなと肝に銘じました。
営業として1年間動いたのち、2年間人事まわりに携わります。いまは「なんでも屋さん」という感じですね。総務部長として主に東京で勤務し、総務・人事・広報や法的対応など父が苦手とする領域を担っています。
地上波テレビでインタビューを受ける小澤由佳さん
―跡取りとして迷いがある中、5年間家業に勤めてこられたのですね。手応えを感じた出来事はありましたか?
父は典型的な技術者気質の人間で、義理と人情に厚いタイプです。でも私と父は本当に正反対なんです。
私が入ってから力を入れて着手したのが人事です。というのも、父が採用した方がすぐに辞めてしまったり、トラブルになる方も多かったりということがあったんです。そこで、人事に関して基本的には私が一次面接をさせていただいて、通過した人だけが父に会うという流れを作りました。
現職の社員へ辞令を交付した際に、驚いたこともありました。ある社員に昇格を伝えた際返って来たのは「残業代は出ないんですか? 昇格するとどこまでが僕の責任の範囲になるんですか?」といった反応でした。また、「プライベートを優先したいので出張には行けない」とも。これまで、父が開発・製造から顧客対応までマルチにこなしていた結果、社員が思うように育っておらず、また社員の業務に対する責任感も欠けていました。「一般的な会社だったらこういうことは通用しない」と私が滔々と伝えたことでようやく理解してもらうことができました。
また、私が行ったことで大きなものがもう一つあります。それは顧問弁護士を変えたことです。社内である裁判が進んでいたんですが、弁護士の先生の対応に関して疑問に思うことがありました。以前から懇意にしていた弁護士事務所だったんですが……。そこで私が他の弁護士の方を探してきて対応してもらったところ、その方がとても仕事が早く、できる方だったんです。そこで、その方に顧問弁護士を替えることにしました。
きっと、年長者になればなるほどそれまでの付き合いがあって、客観的な判断ができないこともあるんだと思います。後から入った第三者だからこそ、分かることもあるのではないでしょうか。
実は、「跡取り娘ドットコム」への入会もこの弁護士さんの紹介なんです。
―そんな素敵なご縁があったのですね! 跡取り娘ドットコムと関わる中で小澤さんに変化はありましたか?
入会前に他の会員の方のお話を伺う機会がありました。
その方は、「女性起業家のコミュニティは、自分の求めているものとは違った」という話をされていました。
跡取り娘って「女性起業家」とは違うんですよね。女性起業家さんは、自分がやりたくて起業している人たちであるのに対して、事業承継をした女性の場合は、もともと継ぐつもりなかったけど先代が突然亡くなってやむを得ず継ぎましたっていう人がたくさんいるんですよね。だから、どちらかというとやりたくて手を挙げたっていうよりも、その家に生まれたからという「運命」で継ぐことになった方が比較的多い、という話でした。それを聞いていて私はようやく肩の荷が下りたんです。
もともと私の中には、事業承継して経営者をやってる人たちって、「自分でやりたくて頑張ってる人たち」というイメージがありました。でも、私と同じで、最初は途惑いながらスタートした人達もいる、しかもそういうことが割と多いんだなと。私と同じモチベーションの人もいるのかも知れないと感じたんです。
そんな話を耳にする中で、これまでは、継承について断固拒否、とシャッターを下ろしていたんですが、いったん跡取り娘のコミュニティに入って、いろんな方の話を聞くなかで自分のハードルをもうちょっと下げてみようかなと思っているところです。
―定例会にも参加されていらっしゃいますね。どんな雰囲気ですか?
定例会には2回参加していますが、質問したら、何かしら皆さんから返答があるのもとてもいいです。先日の会ではバックオフィスの作業を身内に任せることについての話題が上がりました。
家族経営の「あるある」なんですけど、経理から何から親戚がやっていることが多いです。「できれば、もうちょっと外注したり、他者に任せていくようにしたいけど、なかなかできない。どうしたらいいでしょうか?」といった質問がメンバーから上がりました。
それこそ今までうちも経理・経営周りはずっと身内でやってきています。お金回りのことなので、それを誰かに任せるというのは大きな決断なのです。
いろんな案が出て、実際いま銀行にお任せしてますっていう方だったり、税理士さんに全部一任していますという方もいらっしゃいました。
うちはまだ親族でやっているんですが、今後どうするか考えているところでもあります。お金に関して整えていくべき、と改めて気付かされる場でした。
―お子さんの将来を考えて、とお話しされていましたが、お子さんに何を残したいとお考えなのでしょうか。
自分一人だったらこの会社は手放してもいいと思っていたんです。ただ、子どもが生まれて将来のことを考えたら、チャンスは増やしてあげたいなと。なぜなら、経営者や社長って、誰しもがなりたくてなれるというものではありません。本人がやってみたいと思った時にやらせてあげられる環境や可能性は残しておいてあげたいと思っています。
また、我が子だけでなく子ども達には世の中にいろいろな仕事があることを知ってほしいという思いがあります。そのために、世界的に見てもメーカーが少ないダミー人形業界が、お互いライバルとしてではなく会社どうしが手をつなぎながら業界全体を盛り上げる動きを作り出したいです。そうすることで、将来を担う子ども達にもダミー人形業界を知ってもらえるかも知れません。
ブライダル業界や学生時代のバイト経験から私は接客業が好き。いろいろな人と関わりたくて、現在家業の傍らコミュニティスナックにて月に一回接客員としてお店に立っています。性別年齢職業等問わず様々な方が集まるサードプレイス的な場所で、日常生活では出会わないような方に会えることが魅力。そういった人脈も活用し、業界の活性化や家業の発展につなげていきたいです。
小澤由佳さんのご家族とのお写真
社名:株式会社ジャスティ
住所:東京都江東区三好2-4-3
ウェブサイト:https://www.jasti.co.jp/