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インタビューinterview

2025.08.04

タイル工事からITへ──5代目女性社長が歩む「選ばれる会社」への道

跡取り娘インタビュー
Vol.28 中橋システム株式会社 代表取締役社長 中橋 佑実子さん

金沢でタイル工事や水回りの増改築工事を請け負っていた町場の店は、創業から100年以上を経て、今では全国の建設資材卸・専門工事業をITの力で支える会社へと変貌を遂げました。現在の社長は跡を継いで5年目になる中橋佑美子さん。祖父との約束を果たすため社長業に踏み出し、悩みながらも自身のできることを模索した日々について伺いました。

—「中橋システム株式会社」創業の背景について教えてください。

当社のルーツは、大正時代に曽祖父が金沢で始めたタイル工事業「中橋タイル店」です。私はその五代目にあたりますが、今の「中橋システム」としての姿を築いたのは三代目の祖父でした。祖父・英二は現場の非効率な点を改善したいという強い思いを持っていて、当時としてはかなり珍しかったコンピューターに目をつけたんです。職人さんが日報をつけてくれない、在庫と帳簿が合わない──そうした現場の“あるある”に向き合って、社員と一緒に「〇×」で入力できる日報や、出荷しなければ伝票が出ない仕組みなどを作っていきました。実はその仕組みが、今の基幹システムの原型になっているんですよ。

—バレエに打ち込んでいた少女時代から、どうやって「跡を継ぐ覚悟」が生まれたのですか?

小さい頃からクラシックバレエに夢中で、プロを目指していました。だから、「あなたは社長になるんでしょ?」と周囲に言われることにずっと違和感があって…。でも中学に入学した日、祖父の家に挨拶に行くと、祖父がいつになく真剣な表情で「将来会社を継いでほしい」と言ったんです。その重みに、帰りの車中で泣いてしまったほどでした。それでも、当時はバレエに夢中、高校生になっても続けていました。
3年生に上がる春、少し前から体調を崩していた祖父が亡くなりました。ドラマで病室を舞台に人が亡くなったとき、登場人物が崩れ落ちるように泣く、私はそのシーンさながらこれまでに経験したことがないくらい泣きました。その時、最後に祖父に嘘でもいいから「継ぎます」って言ってあげたらよかったのかも、と後悔しました。そこで、「将来会社を継ぎます。そのためにちゃんと大学に行って勉強して戻ってきますので」といった手紙を書いて棺に入れました。

—それが人生の舵を切る瞬間になったわけですね。

はい。まずは東京の大学に進学して舞踊を学び、卒業後はホテル業界に就職しました。ホテルという場所はバレエの遠征でもお世話になっていたこともあり、自然と惹かれて。4年間勤めて、いよいよ中橋システムに入社したのが2019年です。

—家業に戻ったとはいえ、IT業界は完全に未経験ですよね。

本当にゼロからのスタートでした。「新人プログラマ」として現場に入り、まずはコードの書き方から独学で学びました。2年半くらいでお客様対応まで任されるようになりましたが、いちばん苦しかったのは“人間関係”でした。私の場合、父は現場に立っておらず、当時の社長は同族ではなかったので、社員は私を見て「あの人誰?」「会長の娘らしいよ?」と、そんな風に言っていたと思います。ちょうどコロナ禍で飲み会などの交流もなかったので、なかなか信頼関係を築けない日々でした。

—そんな中、前社長が大きな支えになったそうですね。

はい。その方は、祖父がコンピューターを導入した時代にスカウトした方で、50年以上も勤めてくださっていたんです。私は常務取締役としてその方のそばで1年間、経営判断や社員との向き合い方を間近で学ばせてもらいました。「一緒にやっていこう」と言ってもらえたことが、心の支えになりました。少しずつ朝礼で話すようになったり、人事面談に同席するようになって、ようやく“社長としての姿”が輪郭を帯びてきた感覚がありました。

—その後、社長として必要なスキルをどう磨いていったのですか?

実は私、人前で話すのがとても苦手だったんです。小学生のときの発表会からずっと。でも「このままじゃダメだ」と思い、経営者向けの研修に通い始めました。そこでは大声でスピーチをする訓練があるんですが、最初は本当に声が出なくて…。でも「私は社長になるんだ」と腹をくくって、全身で思いを伝えるトレーニングを重ねたことで、ようやく自信が持てるようになりました。

—これからの会社の在り方について、どう考えていますか?

今は、会社が“選ばれる側”になっていると感じます。人口減少も進んでいて、採用市場も完全に売り手。でも私が思う会社の理想は、経営理念や信念があって、それを一緒に頑張ってくれる人が入ってくれて、その人の人生とともに一緒に歩んでいくこと。近年、昔ながらの日本的な経営の良いところがなくなりつつあるように思え、悲しく感じています。
社長側からすると、社員には転職せずにずっと会社にいてほしいもの。働く人も「私、中橋システムで働いてます!」と胸を張って言える、会社も社員もお互い幸せになれるような関係がつくれたらいいなと。
そのために、私は今後、大学院に進学して、組織や働き方についての研究をしたいです。私自身が学び続けながら、会社とともに成長していく。それが、五代目としての私の役割だと感じています。

インタビューアー:まえはらあさよ
社名:中橋システム株式会社
住所:東京都文京区小日向4丁目2−6 プライム小石川ビル 3F
ウェブサイト:https://www.nakahashi-system.jp/

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