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インタビューinterview

2024.10.18

親子二代で築く想いと信頼の葬送―佐々木行恵さんが語る『クリスチャンサービス』の挑戦と未来

跡取り娘インタビュー
Vol.26 株式会社クリスチャンサービス 代表取締役 佐々木 行恵さん

「クリスチャンサービス」は、キリスト教葬儀を取扱う葬儀社です。佐々木行恵さんは前職からお父様と葬儀業界に従事し2007年にはお父様を代表取締役に据え親子で独立創業しました。2020年にはお父様が会長に就き、佐々木さんが代表取締役に就任しました。

 

 

佐々木さんのお仕事についてお聞かせいただけますか?

大切な方を「ありがとう」と送り、「いいお葬式だった」と思っていただけるようなお別れをお手伝いします。私自身がキリスト教の信者なので、教会の牧師・司祭からご紹介を受けることが多いです。ご縁により、キリスト教葬儀だけでなく、無宗教葬・仏式のご葬儀のお手伝いもします。祈ることを生業とする宗教者とご遺族の間を取り持ちます。

打ち合わせの際は、2~3時間かけてご遺族から故人に関するお話を伺います。心がけているのは、その人が頭の中で動き出すようなエピソードを引き出すこと。私たちはそれを宗教者と共有します。

また、そのエピソードを葬儀の設え(祭壇の花の選び方や思い出コーナー)活かします。当社では祭壇に使うお花の色味をお選びいただけるのですが、「どんなお色味にしましょうか?」とお尋ねしても、いつもピンクの服をお召しになっていたというような方でない限り思い浮かばないことが多いです。しかし「どんな方ですか」とお尋ねするとポツリ、ポツリと出てくるのです。

例えば故人がカオリさというだったとして、江戸っ子チャキチャキのカオリさんだったのか、それとも穏やかで上品なカオリさんだったのかそれとも食いしん坊のカオリさんだったのかはたまたうるさくて可愛げのないばあさんだったけど本当に困ったときには手を差し伸べてくれるようなカオリさんだっ、とか……。たっぷりお聞きしてお人柄に合わせて色味・飾りのニュアンスをご提案すると喪主さんから「こうしたい」とアイデアが出てきます。打ち合わせの後からさらに意見が出ることもあり、そうなるとどんどんご自分たちのお葬式になっていきます


-家業に入られたきっかけを教えて下さい

私の実家には、祖父母営んでいた精密機器組み立ての家業がありました。パートさんを雇って現場を回していたこと、祖母が給与計算をする姿、税理士さんが出入りしていたことなどを覚えています。その後ハードウェア製造の会社を独立起業していた父に家業を引退した祖父が合流します。70代でCAD を使っていました。残念ながら技術革新の波は激しく、廃業を余儀なくされました。
2000年頃父は再就職先東京都足立区内の葬儀社転職しました。新天地で父は営業に力を入れていましたが、事務作業に不十分な面が生じたため、私が経理担当として入社することになりました。私は五人きょうだいの長女です。当時他のきょうだいは仕事を持っているか、学生でした。私は出産育児で会社を退職しており、ほぼ専業主婦でしたが、子ども2歳と4歳で保育所預けられる環境にあったこともあり復職に踏み切りました

当初は事務のみを担当していましたが、周囲「向いている」という声を受け、私もご葬儀の施行に立つことになりました。

2007年前職から独立を許され、父を代表取締役として現在のクリスチャンサービスを創業しました。その後2020年には父が会長に、私が代表取締役に就任し今に続いています。

実質私が二代目社長となりますが、盤石な会社を引き継いだ訳ではなく、常に発展途上の中歩み続けてきたという感覚があります。

佐々木さんに「向いている」から葬儀の現場に立つよう周囲からたのはなぜだと思いますか?

葬儀って、故人が亡くなってすぐにご遺族の方の自宅に上がる仕事なんです。夜中に訪問することも多々あります。自分でこの仕事をやってみて思うのが、女性の葬儀屋のほうがご遺族も気兼ねなく家に上げることができるのかな、ということです。女性の喪主の方は特にそうなのではないでしょうか。私が伺うと人によってはご遺体のケアの待ち時間に「お風呂ってきていい?」「寝る支度していいかしら?」等、リラックスして伝えて下さる方もいらっしゃいます。

また、学生時代に4年間続けた病院の食堂のバイトで私なんかみたいな年齢の女性たちと仕事上がりにざっくばらんな「お茶会」をしていたのも糧になっているように思います。彼女たちの若かりし頃の話、軽トラに乗って隣町の盆踊りに繰り出していたとか、当時のお見合い結婚に対する本音とか……同じ話が何回も出てくることもザラです。だから私はいかに面白く話を聞くか、聞き上手になるかを究めていましたね。一度聞いたことのある話も違う角度から掘ってみるんです。今思えばこの「聞き上手」が葬祭業に携わる中で、お客様から故人のエピソードを聞き出すことに役立っているのかな。いい勉強をさせてもらえたと感謝しています。

葬儀屋を利用する方が葬儀屋に対して気兼ねなくなると何が良いか? 「わがまま」が言えるようになるんですしたがって満足度が高くなる。先ほどお話したお花の色の決め方もそうですね。

 

 

「常に発展途上の中歩み続けてきた」とのことですが、ご自身の経験やセンスを活かして佐々木さんなりに切り拓いて来られたのですね。クリスチャンサービスさん独自のサービスや商品に活かされているものはあるのでしょうか?

家業に入るまで社会人経験は2年しかなかったですし、大きな会社で葬祭業の研修を受けた訳でもありませんでした。厚労省認定の葬祭ディレクター1級の資格を得ても、私自身は葬祭サービスの基本を知らないまま仕事をしている、とコンプレックスのようなものを感じていました

だからこそ、当たり前を当たり前と思わないという強みはあるかも知れません。キリスト教葬儀に「死を忌み嫌う習慣がない(喪中やお清めの塩、お供え物をする習慣がない)」という自由さが幸いしているかも知れません。

例えば遺影のフレーム、うちの会社でご提供しているのは当社オリジナルの「白いフレーム」なんです。無垢材を少し黄色が入ったアイボリー調の色に塗装したものです。通常は遺影ってだいたい「黒いフレーム」だと思います。でも、生活様式の変化を受け、また故人を身近に感じていたいという方のために、飾る場所を選ばずそれでいて重厚感のあるフレームを特注で作りましたご遺族の会話の中から必要なものを選び実行に移しました

コロナ禍以降、葬儀や、葬儀以外にもお友達に直接会いに行けない方のためにお花を送るサービス「YUI CARD」も始めました。

葬儀社として、相続や終活とも無縁ではありません。近年では私自身が講師に招かれ、相続セミナーや終活セミナーに登壇させていただいています。

 

-佐々木さんのご活動は葬儀屋さんの仕事にとどまらないのですね。

近年特にその傾向にあると感じていますね。クリスチャンサービスは再来年で創業から20年を迎えますが、喪主さんが親御さん・お連れ合い・きょうだいと複数人を見送り、2回目・3回目ご利用なる方が増えてきました。喪主さんとの関係は1回きりで終わりじゃないんだな、と痛感しているところです。この仕事って助走期間が長いんだな、って。

イメージ的には私たちは駅伝で持って走りながらランナーに渡す給水役」です。ともに走りながら、あるときは私たちに人を亡くした悲しみを打ち明けてくれることもあるだろうし、故人に「ありがとう」を伝えて送るための背中を私たちがしてあげるということもあるかも知れませんそして創業から20年を迎える今、当社を複数回利用される方も出てきました。つまり、私たちも中継車みたいずっと走っているんですよねだから、なるべく利用する方にとってお水ちょうだい」っていうのを言いやすしておきたんです

例えば、親御さんを送って数年経て、今度は自分の終活をしたいとご相談いただくようになりました。エンディングノートを作り、行政書士と公正証書遺言の作成へと繋いでいきます。財産の処分や葬儀の喪主など、役割を果たす人を指名し、想いも遺す。そうすることで親族が争う相続を防議、笑顔で受け継ぐことができます。相談者には「未来へのラブレターを書いてください」とお願いしています。正直な話、目の前の方のご葬儀の施行に関わることでもあるので、畏れ多いのですが・・・・やらせていただいています。信頼していただけるのは、ありがたいことです。

と同時に、それら全うするためには会社を存続させていかなきゃいけないという責任も感じます。5年、10年という話ではなく、50年、100年というふうに続いていく会社にしなければならない。引き継いだ当初はそこまでの想いはなかったんですが、近年そう思うようになりました。

 

-お父様から事業を継ぐことについて何か佐々木さんへ言葉をかけられたことはあったのでしょうか?

言わなくてもという世代ゆえ、特に言われたことはありませんが……私は、何事も抱え込む癖があり、父はそれを理解しており「自分を頼ってほしい」という思いは父からヒシヒシと感じます。

父とは前社、そして創業時から共に営業開拓してきたので、20年かけて父の心の遺産を受け継いでいるということ。また職種は異なりますが祖父母の働き方・人への心遣いを受け継いでいるという感覚が私にはあります。

最後に、跡取り娘の皆さんへのメッセージをいただけますか?

事業継承した経営者として。また、終活セミナーで顧客にエンディングノートへの記載を勧める葬儀社として思うのは、皆さんには元気なうちに個人的なエンディングノートと、経営者として会社の未来をどう委ねるかを示すノート、つまり、ランディングノートを書くことを勧めていきたいと思います。まだまだ誰も手を付けていない分野なので、皆さんと書いていけたらと思います。

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