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インタビューinterview

2019.05.29

父の意思を継ぎ、大バッシングから立ち上がった奇跡

跡取り娘インタビュー Vol.4 石坂産業株式会社 代表取締役 石坂典子 さん(前半)

埼玉県入間郡三芳町にある石坂産業は、持続可能な社会を目指し、廃棄物の減量化・リサイクル率98%を実現する企業です。
今回は二代目の女性経営者であり、風評被害を乗り越えて、地域の環境事業を推進される石坂典子社長に、社長の思いと事業承継での跡取り娘の心構えをお伺いしました。

石坂産業株式会社

―会社の事業内容と現状を教えてください。

産業廃棄物処理事業ということで、日本国内での理解はまだ得られにくいのですが、世界では廃棄物という概念が変わってきていて、産業廃棄物は未来の資源であり、エネルギー源であるという意識に変わりつつあります。

そのため、私たちの事業もただ処理をするのではなく、未来のエネルギーを供給するという意識を持って運営を行っています。地球に今ある資源を使うのではなく、地上に今ある資源を再資源化していくビジネスだと思うと、エネルギー供給産業になっていくべきだと私は思っています。

SDGsには「つくる責任」というのがあります。「つくる責任」とは何かというと、持続可能な社会のために廃棄物になるであろうものを想定した物づくりが大切だという事なのですが、それがなかなか製造業の方々に浸透していません。再生コストをきちんと提供することが本来の製造業の役割であることを認識しないといけません。

また、物を買う人々もそれは本当に必要なものなのか?何年使うものなのかということを考えて物を買うことが求められます。このようなことを伝えることも事業と並行して行っています。

こういったサーキュラ・エコノミーにおいては、これからの社会で最も重要視しなければいけないのは廃棄物をどう処理していくかだと私は思っていますし、若い人たちにもぜひ取り組んで頂きたい事業だと思って、運営しています。

―環境教育ということに力を入れているとお伺いしましたが、どのように環境教育を行っているのでしょうか?またそれを意識したのは事業を継承する前と後どちらでしょうか?

継いだあとに意識し始めました。お客様は費用面だけを求められます。しかし、費用を安くすると様々なことにコストを割けなくなります。それは社員教育であったり、開発であったり、新規事業への転換などが難しくなります。

適正価格を理解してもらうためには、単なる産業廃棄物処理施設ではいけないと思ったのです。直接顧客を説得するより、社会を変えていくということを平行して行っていこうと思いました。価格で物を見るのではなく、価格の裏側にどのような環境課題があるのか、私たち国民も考えてから物を買うようになってほしいと私は思います。そのようなことを小さいうちから知ってもらうためにうちの会社を見に来てもらったりしています。

野菜を種から育て、その期間を感じてもらう体験も行っています。プロセスにコストがかかるのだということを知ってほしいのです。そのような環境教育の活動を行っています。

物を購入するときは人によってさまざまな価値観があります。 しかし、廃棄となるとお客様はみんな安い方が良いのです。そのようなところで争う我々のビジネスであってはならないと私は思います。

次世代の子たちが環境事業は社会的に社会性があるというのをわかってもらうために、私たち自身が変わるというところから、今の活動につながっています

―次に事業継承についてですが、お父様から事業を継いでからのお父様との関係性、また娘だから良かったこと、悪かったことを教えてください。

元々、父親は女には経営は無理だし、嫁に行っている娘には継がせないという考えの持ち主でした。私はお手伝いとして会社に入りました。しかし、ダイオキシン問題の時に多くの地域の方に迷惑だとバッシングをされた時に、初めて父の夢を聞いたのです。

父は昔、海洋投棄されるごみを見て唖然とした経験があるそうです。その時に、埋め立てが当たり前の社会を変えたい、リサイクルの工場を作りたいという夢を持ったそうです。

その話に私は感動し、その意志を継げるのは自分しかいないと思い、自ら社長になりたいと名乗りをあげました。

父は反対していましたが、三兄弟の中に男は一人しかおらず、会社にも入ってこようとしていないこともあり、私の熱意により、まずはお試しで代表権のない代表役取締役を任せてもらうように、チャンスをくれました。

私が社長になった時はダイオキシン問題により、住民から反対運動を起こされたり、裁判を起こされたりという時でした。そのようなことと並行して、経営を学びました。

マスコミの方からはどん底からの脱却として取り上げられ、今ではやまゆりクラブという里山を守る活動を行っている会に3000人を超える方にエントリーしてもらうことができました。15、6年の間にこのような劇的な変化を遂げることができました。

私は事業を継ぐのは売上規模とかそのようなものではなく、思いを継ぐのが大事だと思っています。企業であっても、個人のお店であっても、創業者がどのような思いで経営をしようとしていたのかという意志を継ぐのが大事だと私は思っています。

―お父様は大変パワフルで、エネルギッシュな方であると思います。その方の後を継ぐというのは、怖さや葛藤などはあったのでしょうか?

父とはやり方が違うというのが一番大きかったです。目的は一緒だけど、プロセスが全く違うので、その説得がとても大変でした。

例えばですが、後を継いでいた時に、すでに先代が亡くなっていたら、借金問題などはあるかもしれませんが、トラブルの対象がない。

しかし、父が元気であるとその説得がすごく大変で、「お前のやり方がおかしい」とか、「そんなことやらなくて良い」とかいろいろと言われました。

大変な思いをしながらの引き継ぎでしたが、今振り返った上での結論を言うと、創業者の立場をどのように作ってあげるかが何より大事で、二代目の大切な役割なんだと思います。

従業員の前では何があっても社長とのやり方は口にせず、社員の見えないところで話すことを心がけて、私にも真意がある事を父に分かってもらうまで、根気強く対話を続けました。

―事業を承継される方の中には尊敬できる関係性がつくれない、父の言われるがままにやらなければならないケースもあると思いますが、石坂社長はどのようにアドバイスをされますか?

そもそも、父親がなぜ娘に仕事を継がせようと思ったのか、それを汲むのが大切だと私は思います。それは父親が娘に期待をしているからです。

しかし、娘が会社を変えようと行動を起こすと、その行動は大体が唐突だったりします。なぜこれをやりたいのかを説明し、経営者として納得してもらうまでには莫大な時間と労力が必要なのです。

娘だからと言って、父親にちょっと言ってわかってくれなければすぐへそを曲げてしまうという事では、いつまでも説得することはできません。父親は娘が自分に対して本気で説得してくれるのを待っているのです。

父親に負けないぐらい会社のことを考えているし、会社を守りたいと思っている。だからチャンスが欲しいと説得してみてください。

私の場合はコンサルタント会社を入れたいと言いましたが、父親には会社を乗っ取られるのではないかと反対をされたので、「1年のうちにこれを達成したいから、この権限と費用が欲しい。このことをやって、こんな会社になる。1年やってみて、成果が出なければこのことからは退く。」と約束をしました。

このようにして説得を行う際は、約束事と期間を決めて伝えるのがとても大切だと私は思います。考えが甘いと思われてしまってもいけないし、最終的に父親に責任を取らせるのも、会社の信用を落としてもいけません。

私も今息子を会社に入れようと思っていますが、現場を知らない息子が私に意見してきてもやはり現場を知らないくせにと思います。私自身は会社に入った際に現場に入り、廃棄物施設のごみ拾いから始めました。

そのように現場で頑張る姿を見せることは創業者である父親だけでなく、従業員の信頼も得ることができます。外部から入ってきて、突然いろいろ言うのは創業者のプライドを傷つけ、従業員もそのような二代目の社長にはついてきてくれません。どのようにして信頼を得るかが大切なのです。

そして私は継ぐ覚悟より継がせる覚悟の方が優先されるべきだと強く思います。自分の継がせる覚悟ができたら継がせるとか、娘が本気を出したらと考えているとタイミングを逃します。継がせようと思うのであれば、いつまでに継がせると従業員、そして二代目の社長に宣言するのがとても大切であると考えます。

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