跡取り娘研究家
小松智子
-跡取り娘の学びのヒント-
跡取り娘はキャリアをどこで積むといいのでしょう?この問いに、これという正解があるわけではありません。
海外のファミリースクールでは、この問いに対する思考のフレームとして、将来のファミリー企業のリーダーの学びを、いくつかの段階に分けて説明しています。
4Lフレームワーク
ケロッグ経営大学院ファミリー企業センターの前センター長、ボンド大学ビジネススクールのジャスティン・B・クレイグ氏と、ボンド大学ファミリービジネスセンター長のケン・ムーア氏は、書籍『ビジネススクールで教えているファミリービジネス経営論』のなかで、次のように述べています。
“ファミリー企業のリーダーに必要とされる能力とマインドセットの観点から、ファミリー企業のリーダーの学びは、4つの段階に分けられる”
まずは、社会に出てビジネスを学ぶこと、次に、自社のビジネスを学ぶこと、自社のビジネスを率いることを学ぶこと、そして最後に、ファミリー企業を手放すことを学ぶこととされ、「4Lフレームワーク」と名付けられています。そして、4つの段階のそれぞれにおいて、優先的に学ぶべき内容には違いがあるといいます。
社内で?
それとも、社外で?
まずは、「ビジネスを学ぶ」段階では、仕事をしていくうえで基本的なスキルを習得することが求められます。例えば、自己管理や人間関係のスキル、実践的な知識、創造力などです。そうしたスキルの多くは、どの事業・企業においても共通して求められるもので、ファミリー企業特有のものではありません。基本的なスキルを、自身のファミリー企業に入社して学ぶのか、それとも、いったん別の企業に入社し社外で学ぶのか。跡取り娘になると決めている人、あるいは、跡取り娘となることを迷っている人にとって、ふたつの選択肢があります。
社外で仕事をすることは、ファミリー企業を承継しないという決断に結びつくかもしれません。その意味において、将来の跡取り娘のみなさんが社外で仕事をするということは、ファミリーにとって脅威と捉えることもできるでしょう。
その一方で、ファミリー企業では得られない視点を身に付けたり、第二創業に繋がる、他には替え難い重要な経験を積む機会に恵まれることでしょう。何より、社外での活躍は、将来ファミリー企業に入った際に、跡取り娘となる人物の能力を証明してくれることになります。
多くの跡取り娘も、社外での学びを経験
キャリアの早い段階で、将来事業を承継する人物がある程度の期間社外で働くことは、海外でも一般的に受け入れられています。
日本でも、ホッピービバレッジ株式会社の石渡美奈さんを始め、多くの跡取り娘のみなさんが、社外での経験を経て、ファミリー企業の経営に繋がる能力を身に付けたことが知られています。
その際、現在の経営者には、将来の跡取り娘がファミリー企業に戻ってこられる道を確保しておいてほしいと思います。
『ビジネススクールで教えているファミリービジネス経営』(2019)
ジャスティン・B・クレイグ、ケン・ムーア著 プレジデント社