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インタビューinterview

2019.10.30

働く人に誇りを持ってもらう会社にするために 商社流、跡取り娘の組織改革テクニックとは(後半)

跡取り娘インタビュー Vol.8 玉川製菓株式会社 玉川真奈美さん(後半)

駅から離れた場所にも関わらず行列を作る「せんべ味億本舗」という3代続く老舗せんべい店。
日本の就活に疑問を持ち、アメリカへ留学し、破天荒な20代を過ごした「跡取り娘さん」は、帰国後に商社に入社し立派な跡取りとして過ごしています。今回は玉川製菓3代目予定の、玉川真奈美さんに、商社で学んで来た組織改革について伺いました。

玉川製菓株式会社

小林:これから先、玉川さんとしてやっていきたいこととか、変えたいこととかありますか?

私は今の環境にすごく満たされています。たくさんお給料をもらっているとかではないですよ。笑
やりがいのある仕事があって、一緒に頑張ってくれる従業員がいて。プライベートも充実し、不自由なく生活ができています。私の信念に「知足」という言葉があるのですが、今の私の状況はそれだと思います。だから今後は一緒にいる人たちを幸せにできたらと思っています。経営者として商売で利益を出して、その利益を社員に還元して、うちの会社で働いて良かったと思ってもらえる会社にしたいです。

前の会社にいるとき、そこで働いている人はみんなその会社でで働いていることをすごく誇りに思っていたし、自慢にしていました。その会社で働いていることをすごく誇りを持っているのです。うちの会社もそんな働いている人が誇れる会社にしたいです。私はあそこのお煎餅屋で働いていると周りの人たちに自慢してもらえる会社に。名前が知られているからすごいね、ではなくて、働いたら幸せになれるような、中身を伴ったずっと働き続けたいと思える会社にしたいです。

働いている人にとって、その会社で働くことはその人の労働力の投資だと思うのです。辞める=その会社に投資するだけの魅力がなくなった、ということだと思っています。もちろん年齢的、体力的に厳しくなってやめていかれる方もいますが。労働力を投資していく価値があると思ってもらえる会社にしていきたいと思っています。

小林:なるほど。どうせ労働力を投資するのであれば、投資しがいのある会社にしたいということですね。働く人にとっても会社を選ぶ基準になりますよね。

玉川:その通りです。やっぱり人がいないと成り立たず、私一人では商売はできないのです。来て頂いている方はみんな私が一人ではできないことを手伝って頂いていると思っています。お店も一人では回りません。だからできないことを手伝って頂いている人にはお礼をしたいし、利益で還元したいです。

内山:その辺はお父様とは考えは一致していますか?

玉川:社長ももちろんそのような思いはありますが、なかなか形に表すのが得意ではないようです。駆け抜けてきた時代背景から、とりあえず売り上げを上げて、会社を維持していきたいとずっと考えてやってきた人です。そして、それが雇用につながり、社員の幸せにつながると考えています。

だから利益を還元するとかは頭の片隅にはあるけど、明確化はしていないです。でも社長は神様のように優しい人なのです。だから働く人には幸せになってもらいたいと思ってはいるけれども、はっきりと形に示すことができない。だから私が具体的に提案することで「そうだよね」と同意してくれます。
うちはやめる人が本当に少ないのです。この間ぎっくり腰でやめた方が勤続26年で、その前も勤続30年とかです。半分以上が20年以上勤めています。社長の人柄あってのことだと思います。

内山:離職率が低いというのは、本当にすごいと思います!

玉川:その秘訣としては、社長がパートさんに多くの権威委譲していることだと思います。。工場のパートの方は全部で24人ぐらいなのですが、休みはパートさんの中で相談して、勝手にそっちで決めていいよという感じです。社長はいろいろ忙しいから、「私はいつ休みます」とか報告しなくて良くて、一定の人数が出勤していて業務に支障が出なければだれが休んでいても構わないというスタンスです。
うちは1時間に何個生産しないといけない、といったノルマも課していなくて、前にノルマがあった方が良いのではないかと社長に提案した際に、みんなが同じ能力なら良いけど遅い人もいれば早い人もいる。ノルマがあるとあの人が遅いから終わらなかったとかでもめごとになる。だからノルマは課さないと言っていました。なるほどな、と思いました。それで生産性が落ちるのかどうかはわかりませんが。

小林:それで幸せに働けるのであればモチベーションにもつながりますよね。返ってぎくしゃくするよりは生産性が高まると思います。

玉川:そうですね。それで今までうまく回ってきているからそれはそれで良いのかなと思っています。私としては今まで社長がやっていてうまくやれていたことは口を出さないようにしています。
ただアナログすぎる部分はデジタル化して効率をあげようと話したことはあります。商品を管理するのも手でなくてipadとかバーコードとかあるよとか。そのような話はしました。

小林:少しずつ慣れればという感じですね。

内山:事業承継のタイミングはまだかと思いますが、不安などがあればお聞かせください。

玉川:そうですね。それについては周りからいつ社長になるのかとよく言われます。でも私は社長が元気なうちは社長に頑張ってもらうつもりです。私が今やっている業務は実質社長がやっていることと同じです。銀行さんと借入れの話もしています。
社長も私に相談してこれだけ借りるけど資金繰りはどう?とか相談があります。お金の管理も私がしています。その傍ら、実務もしているし、チラシを作ったり電話も取ったりしています。なので、今の状況だと、肩書だけのような気がします。社長という肩書に何の意味があるのだろうかと思っていますが、銀行さんとか取引先さんとかは心配だったようです。
結局この後この会社はどうするのかと。でも取引先さんも私が継ぐということが分かってからは心配しなくなりました。
逆に私が継ぐと分かっているので銀行さんからの営業がすごいです。後継者不足から廃業してしまう会社もいっぱいあると思います。いくら黒字でも。でも私がやるとわかった瞬間にこんなのもありますよとか、保険どうですかとか営業がきました。

小林:なるほど。では並走していくということでしょうか?

玉川:そうですね。今社長は71歳ですが、まだ元気なので10年ぐらいは大丈夫かなと思っています。10年後ぐらいを目途に相続のことも考慮し、私が社長に父が会長にと思っています。でも業務的には社長はずっと仕事をしてきた人なのでリタイアしてもらうと一気に具合が悪くなりそうなので、できる最期まで働いてもらおうと思っています。

内山:現状でそこまでマネジメントできているのであればお父様もいつでも継いで良いと思っていそうですね。ずっと並走でも良いのかなと思いますし、昨日も跡取り娘の方と話しましたが、その方はいつ継ぐのかが怖いと言っていました。でも今の玉川さんのお話を聞いていると関係性も良いし、いつ継いでも良いという感じですね。

玉川:そうですね。でもうち在庫管理とか社長の頭の中という不安要素があります。発注も生産管理も全て社長で、システム化はされていません。だからその辺が心配です。今のままで元気なら、ちょっとずつ見える化していけば良いのですが、万が一の時が怖いです。

内山:あと、お父様しかわからないという味の選別ですよね。

玉川:そうですね。その2つです。特に味の選別は将来的に私で本当に大丈夫かと心配になります。在庫は何とかなっても味は何ともならないので。世代交代してから味が落ちたとか和菓子屋さんとか、お寿司屋さんとかありますもんね。
内山:そうですね。そこをお父様にもう少しデータ化しないかと提案できると安心ですね。
玉川:結構お煎餅って繊細で湿度で膨れ方が違うそうです。長年の経験で食べ続けて行くしかないでしょうね。今のうちから始めます。

内山:頑張ってください。これからの事業展望とか、こんなお店にしたいとかありますか?

玉川:うちはすごく小さな会社でお煎餅の専門店です。だからスーパーとかコンビニとかと勝負したところで勝てません。うちみたいなお店の生き残りのためには地域に根付くしかないと思っています。地域に根付くためにはどうしたらよいか。そのために居心地の良さ、来て良かったと思えるお店作りを重点的にやっていこうと思っています。
これだけの会社を残してもらえたのはすごく幸運だと思っています。業績も伸びているのですごくありがたいです。それをどう継続していくかというのが私の役割だと思います。特に店舗をオープンするとかいうのはなくて、今あるものの発展と存続をしていきたいです。

小林:お店を二か所というのは変えていくつもりはないということですね。店舗売り上げとオンラインの売り上げをどう増やしていくかということでしょうか。

玉川:売り上げ的にまだまだ伸びしろがあると思います。今まで社長一人だとできなかったことを二人で力を合わせて実現したり、従業員の方と協力してアイデアを出し合ったりとやりたいことはたくさんありますね。

小林:あと煎餅娘の活動はどうですか? お煎餅屋のコミュニティを今作っているのですよね。

玉川:そうです。若い人に食べてもらいたくてがんばっています。お煎餅って結構ポテンシャルがあって、ぬれせんべいにあんこを巻いて食べたらおいしいよとか、クラッカーみたいにして食べるとおいしいよというのを若い人に向けて発信していきたいと思います。なかなか今はできていないですが。

小林:今できてないというのは、お中元の時期で忙しいというのもあるのでしょうか。

玉川:今の時期(8月)は例年暇なはずなのですが、なぜだかずっと忙しいのです。休みたいのですが、お盆前の帰省のためにお店にご来店いただいているお客様がたくさんいるので休んでもいられないですね。ありがたいことですが。。

9月はお彼岸で10月はちょっと落ち着きますが11月はお歳暮で、12月は年末年始と忙しいまま今年を駆け抜ける感じで、なかなかコミュニティに使う時間が取れない感じです。
コミュニティは10〜15人くらいの有志でお煎餅好きが集まってワイワイやっているだけなのですが、様々なコラボの話もあって面白いので発信はして行きたいと思います。

内山:屋上で蜂蜜を作っている人がいて、中村屋とか銀座あけぼのとかとコラボしていると言っていました。それで銀座の地元のお菓子を作っているそうです。食品関係で組めると良いですね。

玉川:そうですね。あとストーリー性がないとなかなか売れないので何かしら清瀬の中でやる意味を語れる感じでないとだめですね。

小林:地域の循環型というか、そんな感じですよね。

玉川:コラボしただけだと普通なので。いろいろやりたいことがあります。

内山:これからの展望が楽しみです。本日はどうもありがとうございました。
跡取り娘にもぜひまた来てくださいね。

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