跡取り娘.com

インタビューinterview

2021.07.13

子育て世代が飛び立てる空間づくりを
子ども時代の原風景が事業承継のスタート地点!

跡取り娘インタビュー
Vol.23 株式会社アイヴィクト 設計室長 菅葉子さん

1989年の設立以降、住宅、商業施設、オフィス、福祉施設(保育園・高齢者施設)など、100棟以上の建物の設計実績をもつ株式会社アイヴィクトのコンセプトは、「多様性をかなえる空間」。
2代目を承継予定の菅葉子さんは、2年前に大手設計事務所でのキャリアに区切りをつけて家業に入りました。
そんな菅さんに、幼少期の原体験や家業に入った経緯、建築設計で目指す空間づくりについて、伺いました。

お嬢さんとのツーショット。子育てが家業に目を向けるきっかけとなった

―菅さんと建築の関りについて、お聞かせいただけますか?

父が建築設計の仕事をしていたので、幼少期から、建物がとても身近な環境にありました。例えば、週末のドライブの行き先は建物見学でした。私は「なぜ、遊園地に連れて行ってくれないのかな?」などと思いながらも、建物の屋外階段などで遊んでいました。

小学校3年生の時に暮らし始めた父の設計した家を、初めて見た時の「ワクワク感!」は今でもはっきりと覚えています。屋根裏部屋のある三角屋根の家で、私の部屋は屋根裏部屋を介して兄の部屋と繋がっていました。子どもの私にとって、回遊性のある屋根裏部屋はまるで秘密基地のよう…。この家が私の原風景で、そんなワクワク空間を父がプレゼントしてくれたことで、「設計と建築が持つ影響力」を子どもの頃から肌で感じ取っていたのだと思います。

そんな風でしたから、父との会話のなかで建築設計に関することを取り上げていましたし、大学の専攻は、「建築以外は思いつかない!」という感じでした

「原風景」と語る、自宅のスケッチ画

―菅さんは、大学卒業後、大学院に進んでフランスに交換留学されたご経験がおありとのことですが、どのような研究をされたのでしょうか?

留学先の大学では、半年間の実務研修が必須とされており、私は、ボルドーにある「建築センター」を実務研修の場に選びました。そこで、展示の会場構成を考えるだけでなく、「子どもへの建築教育の普及」にも関わることが出来ました

フランスでは人種の違いによる格差が存在しています。貧困による教育格差を失くすための試みとして、「子どもへの空間教育」が実践されていることに強い関心を持ちました。そこで、日本に帰国後も修士論文の調査のため再び渡欧して、フランス、オランダやベルギーの空間教育に携わっている機関を1か月掛けてインタビューして回り、「空間と子ども教育の関係」について修士論文にまとめました。こちらでは、空間を通して子どもの感受性や自発性を高めることの重要性について考察しています。

大学院での研究は、日経アーキテクチュア 2005年8月8日号に掲載された
(子どもワークショップ写真:上段・中段はarc en rêve centre d’architecture,下段は菅葉子)

―菅さんが、子ども時代に身をもって体感されたことと研究内容とに、繋がりがあるように感じます。大学院を修了して大手設計事務所に就職されたそうですが、家業に入られたきっかけはどのようなことだったのでしょうか?

前職で設計者として働いていた時は、充実感もあり、家業を継ぐというイメージは持てませんでした。

でも、子どもが生まれて、子どもの面倒を見てもらうなど両親との関りが増えてくると、父の会社の今後についても自然に考える機会が増えました

父の50年の設計活動の中で出会ったたくさんの施主との関係と、建物にかけた想いを聞く中で、その姿勢がすごく素敵だなと改めて思うようになり、家業というものに目が向くようになりました。

前職では、設計者という自分の役割が決まっており、設計の道で専門性を高めていきたいと思っていましたが、私も、父のように会社全体のことをマネジメントしながら自己を形成していきたい、そのなかで自分の想いを込めた設計をしていきたいと、考えが変わっていきました。

そして、「父と一緒に仕事をしたい」と心が決まり、父の年齢も考えて、2019年に家業に入る選択をしました。

―菅さんが家業に入られることに、お父様の反応はいかがでしたか?

家業に入ると告げた際は、父はとても嬉しかったのではないでしょうか。
留学の際もそうでしたが、父は、私の考えを否定しないで、いつも応援してくれるように思います。

―自然な流れで家業に入られたのですね。とは言え、家業に入った際、前職とのギャップを感じませんでしたか?

やはり、ギャップは感じました。父とは世代も違いますし…。仕事の仕方も、組織の設計事務所のなかで、チームでデザインしていくのとは変わりました。しかし、チームは外部にいても作ればいいのだと気づいてからは積極的にコラボレーションをしています

―家業に入ってギャップを感じた2年前と今とで、他にも気持ちの変化はありましたか?

2年前は父を手伝いたいという気持ちが強かったのですが、父と私は強みが違います
父はもともと大手ゼネコンにいたので、建物を造る立場からも物事を考えますが、私は設計者のみの組織に属していたので、設計の立場から物事を考えます。豊富な経験をもつ父から、様々な視点に立った設計のノウハウを学んでいきたいです。

 これからは、父と共に設計する中で父の強みを吸収しながら、少しずつ、自分のやりたい事業も始めていきたいと考えています。自分のやりたいことを父にも応援してもらいたいと思っています。

やはり、家業を継ぐと決めたことで、私の中に「覚悟」が生まれました。経営者の立場から、社会課題に対してコミットしたいという意欲が沸いてきています。

ファミリービジネスについて調べてみると、二代目は先代の創業の苦労をよく知っているので、会社の体制を変えにくい面があるようです。三代目になると創業者から距離があるので、比較的自由な立場となり、新しい事業を始めることを考えるのは三代目が多いそうです。

私は二代目ですが、家業と離れて他社での就業経験がある分、父の意見を聞きながらも新規事業を立ち上げたいという、どちらかというと三代目に近い考えを持っていると思います。

株式会社アイヴィクトHPより 設計 / 不動産 / 人材派遣・紹介と多様化する社会のニーズに応える

―今後は新しい事業を始めていきたいとのことですが、将来のビジョンについてお聞かせください。

私の原風景としての子ども時代に過ごした家での体験、フランス留学で「空間と子どもの教育の関係」について研究したこと、前職で保育園の設計等に携わってきたことが、私のこの先のビジョンに繋がっています。

自分が子育てをするようになってからは、女性の働きにくさをひしひしと感じるようになりました。そこで、子どもと一緒に来て子どもを預けて働く場をつくりたいと考えています。具体的には、「一時預かり併設のシェアオフィス」の企画をしていきたいです。

例えば、子どもを預けて学び直しをしようと思っても、子どもを預けられる仕組みが今は多くはありません。男女を問わず様々な境遇にある人が、子育てを機会に自身のキャリアを見直し、フルタイムで働くことに拘らない柔軟な時間の過ごし方をするなかでキャリアシフトしていくことを応援したいと考えています。

不動産業~設計業の一気通貫と、補助金活用のノウハウで、事業化を進めていきたいと思います。
子育て世代が、やりたいことをどんどんやりつつ飛び立てる社会が理想です。事業のスキーム化と子どものための空間設計のノウハウを提供してくことで、子育てしやすい空間づくりをしたいです。

―最後に、跡取り娘の皆さんへのメッセージをお願いします。

女性は、父親との関係性が良好な場合も多く、だからこそ、自然な流れで家業を承継できる面があるのではないでしょうか。私もそうでしたが、父と娘という関係性だからこそ、得られたことも多いように思います。

「継ぐと決めた時が始まり」ではなく、「生まれた時から傍にあった家業なのだから、いちばんよく知っているのは私」との自信をもって承継していけばいいのではないでしょうか。私の場合も、家業に入ると選択したその時ではなく、幼いころの「原風景」が、実は承継に向けてのスタート地点だったのではないかと考えています。

インタビューアー
跡取り娘ドットコムパートナー 丸山祥子

編集
跡取り娘ドットコムパートナー 小松智子


木部みゆき/小松智子

株式会社アイヴィクト

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